おすしブログ

お寿司ブログではないです

だから1人レストランには行かない

例えば1人でレストランに行き、透明なゼリーが出てきたとする。ひとくち食べてみると美味しいのだが、何味かがわからない。確かに果物っぽくて、食べたことある味。透明だからマスカットか?と思いつつも、そうではないのはわかる。店員さんを呼んで、「これを作ったひとを呼んでくれ」という勇気は無い。なんだろうなと思いながら完食する。レジで支払いするときが最後のチャンスだが、発した言葉は「レシート要りません」だけ。店を出てとぼとぼ歩きながら、頭の片隅にゼリー状のはてなマークがぼよんぼよんしている。

私は信号が赤になっていることに気付かず、車に轢かれそうになる。私は改札にテレフォンカードをかざしてしまう。私は反対向きの女性専用車両に逆立ちで乗り込んでしまう。

口の中はwash outされて、味は記憶のなかだけで生きている。はてなゼリーを大きる膨らみ、頭痛がしてくる。女子高生二人組が並んで座りたいためか、僕に「詰めてもらえますか?」と聞いてきても、「マスカットではないんです」と言ってさらに足を広げてしまう始末だ。

満身創痍で自宅マンションに辿り着き、エレベーターに乗って10分くらいじっとしていると「目的階のボタンを教えてください」とアナウンスされ、2階を押して、降りて10階まで階段で行き、エレベーターで1階さがって、パラグライダーで向かいのマンションの6階までジャンプする。

ドアの前で鍵がないことに気づく。しまった、鍵を自宅に忘れたままででしまった。私は頭を抱えて、膝も抱えて、腰も抱えて、しまいには両足首を抱えて、15センチ中に浮いた状態で、宇宙を貫く真理の数式に思いを馳せた。A4サイズの紙に中3女子くらい小さい字で書いて8枚は必要な数式。そこにあらゆる項を代入することで、大抵のことは導き出せるはずだ。私はx=昼食の透明なゼリーを代入し、y≠マスカットとして計算を始めた。見回りに来た数学の先生が落ちた消しゴムを拾ってくれた。夢中になっていて気付かなかった。

無慈悲にも終業のチャイムがなり、ペンを置いて答案用紙を裏返すように言われた。私はふーっとため息をついて、自分の名前がちゃんと答案用紙に書かれていることだけを確認し、後ろから紙を受け取って前に回した。

私はそこそこ自信があったので汗を拭いて、涼しげな顔で座っていた。いかにも馬鹿そうな友達が、「まじでむずかったなー」というので、そうか???という顔をしつつ、「そうか??」と声に出した。一馬身離れたところにいる女子にギリギリ聴こえるデシベルで。

女子は答え合わせで盛り上がっている。やれやれと思いながら耳を澄ましていると、「梅ゼリーだよね」と声が聞こえてきて、私はびっくり仰天して、椅子から転げ落ちて、頭を打って、薄れゆく意識の中で、口の中に梅の風味が広がっていくのを感じたのであった。