おすしブログ

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実の家

実家が建てられたのは私が生まれる少し前で、鮮やかな薄黄色の壁をしている。当時、というか幼少期は近所の街並みは古びた家屋が多くて、鮮やかな黄色い家は目立ってた。私が大きくなるにつれて新しくハイカラな家が建つようになって、少し大きな交差点ができたり、町は少しずつ変わっていった。古びた家屋も半数は昔のままで、哀愁漂う感じで味がある。町に新しい建物ができて、道路が整備されていく感じを悪くは思わない。ここで暮らすことを選択した人達が増えているというのはいいことなのではないだろうか。

名古屋の家は目の前に広い道路があって、ほぼ一晩中車の走る音がする。初夏に窓を開けて寝ると、サイレンや暴走族で起きることが多い。実家は道路沿いにあるのだけれど、ほとんど車は通らない。あまりにも静かに感じる。時折、空高く飛行機が飛んでゆく音が聞こえる。中庭で何羽かの雀がじゃれて、ピヨピヨ聞こえる。昼間、猫は大抵眠っている。陽だまりをつくる窓際が定位置で、そこには座布団と毛布が敷いてある。今も猫は足を伸ばして寝ている。

お昼ご飯をつくる。平日なので起きるとひとりぼっち。猫は椅子の上で寝ている。時間がゆっくり流れているように感じる。LINEの通知は切ることにした。とくに困ったことにはならない。

山芋を擦り下ろす。そこに桜海老と紅生姜とキャベツとネギを混ぜる。卵を割って更に掻き混ぜる。フライパンに油をひき、火にかける。生地を流し込んでフライパンの上で三つの島にわける。そこに豚肉を載せて、鰹節をかけて蓋をして火を弱める。その間に寝ている猫のところに行ってテキトウに話しかける。猫は起こされてニャアと言う。これを勝手にコミュニケーションとする。猫の機嫌はわからない。かなり良い天気だ。雲はほとんどない。雲がないことが良い天気とは限らないけれど。雲がかわいそうだから。青空の雲もまた平穏な象徴である。暖かい日だ。

タイマーが鳴ったので、生地を裏返す。小麦粉が入っていないので形は簡単に崩れるので、注意を払う。けど、結局崩れる。崩れるのもまた良い。崩れることで完成する料理もあるはずだ。思いつかないけれど、世界のどこかでそんな哲学を持った天才料理人が包丁を握っているだろう。そしてまた蓋をして待つ。食器棚から真っ白な皿を出す。皿は白い方がいい。そして割り箸も出す。姉の箸を間違って使うと怒られるので割り箸にする。どれが姉の箸かわからない。どれも姉の箸に見えてくる。

焼き上がったので一番小さいやつから皿に乗せて食卓につく。お好みソースは螺旋状にかける。マヨネーズは横に行ったり来たり。食べると美味しい。猫が眠そうに寄ってくる。猫の食べ物ではないので、その雰囲気悟った猫はまた寝床に戻る。全部食べると満足感に襲われる。眠くなるほどは食べない。もう少し痩せたい。胃が小さくなってきた。

実家にいても特にすることがない。勉強か本を読むかネットをするか。することがないのはいいことだ。JINSのサングラスみたいなブルーライトカットメガネが欲しい。買いに行こう。免許を持ち歩いていないのでお母さんかお姉ちゃんと行こう。

名古屋で買った本を持ってきた。それを読もうと思っている。ひとつはキリスト教の本でなかなか眠くなるけどときどきハッとするようなことが書いてある。蛍光ペンで線を引きながら読んでいる。読み終わったらお姉ちゃんに勧める予定。布教。

もうひとつはオードリー若林のキューバへの一人旅を記したエッセイ。オードリー若林の喋り方がすごく好きで、若林がラジオで喋っているのを聴くのが幸せだ。YouTubeで若林のラジオトークを切り取った動画を片っ端から再生リストに放り込んで、ゆっくり消費していっている。あんなに面白く喋れたらいいだろうなと思う。なんであんなに面白いのかわからないから真似することはできない。(ちなみに天竺鼠川原とダイアン西澤も喋りが本当に面白い)

その若林が初めて出したエッセイが文庫化されていて中古で買って、寝る前に少しずつ読んでいた。人見知りキャラの若林の人間嫌いの尖ったエピソードがいっぱいで面白い。共感できるけど生きづらいだろうなと思う。生きづらさが若林を面白くしたんだろうとも思う。その中でもジェットコースターが嫌いだという話があって、それが興味深かった。ジェットコースターは嫌いだけど先輩に無理やり連れていかれて無理やり乗せられたが、帰り道なんだか満足感があったという。人生で目先に嫌な予定があることは常日頃だけれど、それは終わった後の達成感や安堵といったポジティブな気持ちとセットになっているという。すごく目新しいことを言っているわけではないけど、若林はそう考えることで憂鬱さを和らげることができたと記している。それが良い。若林がそうなら私もそうしようと思った。若林の文章も好きだ。そんな若林の旅行記なんて期待大なのだ。私は旅行に全然行かない。行き方がわからない。一人旅なんてしない。ひとりで外食もできないくらい。でも一人旅に憧れる。なぜか。主体性が欲しいのだ。とっておきの本を持って帰ってきた。じっくり読んで、夏休みに一人旅に行くような変化があれば面白い。そもそも海外も行ったことない。パスポートってなんですか、といった具合。

実家について書こうと思ったけれど、若林の話が長くなってしまった。また何か思いついたら実家について書こう…。今はただ平穏を噛み締めるとしよう。あーめん。