人生はジェットコースター
小学生低学年の頃、自転車に慣れてきた頃、私は1つ上の姉と一緒にサイクリングに出かけた。
姉に付いて行くと、そこには長い急な坂があった。
アスファルトの道路の坂であったが、周りは田んぼと川しかなく、見晴らしの良い、とても気持ちいい坂であった。
私はこのような大掛かりな坂を自転車で下ったことが無かった。
緊張と興奮。
姉は、上るぞ、と行って坂に向かって行った。
私も必死に姉に食らいつくが、坂がきつくてかなり辛い。
「姉ちゃん、もうダメや…」と私は言う。
姉は、「坂は上らんと始まらんのや」と言ってペダルを漕ぐ。
さらに姉は言う。
「坂を上るにはな、どっかいりょくが要るんや」
「どっかいりょく?」
「せや、坂を上る力をどっかいりょく言うんや」
私は頭の中で、どっかいりょく…どっかいりょく、と言いながら必死にペダルを踏んだ。
どっかいりょくの、「どっ」の所で足に体重を精一杯かけた。
そして何とか私は坂を上りきった。
そして坂の上からあたりを見る。
とても清々しい。
と、同時に下るのが怖い。
姉は、すぐに「やっほー」と言いながら坂を下って行った。
私は尻込みしたままであった。
姉が坂の下で手を振っている。
「どっかいりょくやー」と姉が叫ぶ。
どっかいりょくや、と私は呟いて、坂を下った。
姉は、この坂をジェットコースターと呼んでいた。
姉は後に、母が家の階段を滑り落ちた話を作文に書いて入賞した。
タイトルは「階段ジェットコースター」だった。